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Top Interview 

吉田早織/バレエダンサー

「綺麗だけではない、生き方そのもの」

2025' . Vol.117

Dancers Web トップインタビュー

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―バレエを始めたきっかけを教えてください

 

 4歳のとき地元のカルチャーセンターに通いましたが、お遊戯みたいな感覚でした。母の強い希望で娘に習わせたかったそうなのですが、じつは私はあまり好きじゃなくて(笑)。数時間でもお母さんと離れるのが嫌で、みんなと同じ行動をするのも苦手でした。でも1年後に毎月高熱が出る症状が出て手術する必要があり、5歳から7歳までバレエから離れていたんです。

 

―復活することになった理由は?

 

 7歳のときにお友達のお母さんから「もう一回やってみたら?良い先生がいるよ」と言われて、また通ってみたら楽しくて!ハマった理由は、そうですね。負けず嫌いなのと、あの子には負けたくない!と勝気な面が出ました。父がスポーツマンで「一番じゃなければダメだ」という考えに影響されたのかもしれません。大人になってこの思考が人と比べてしまう原因となり、少し苦しむことになるのですが、当時は日々できることが増えてのめり込むようになりました。

 

―その当時、バレエ以外で熱中したものはありましたか?

 

 部活には入っていませんでした。マルチタスクが苦手で、良くも悪くも一つのことに熱中するタイプです。幼いころはディズニーのアニメが大好きで、プリンセスへの憧れもありました。そういう非日常的な感じがバレエに共通しているかもしれないですね。

 

―いつ頃からプロのダンサーになることを意識されましたか?

 

 プロになりたいとは全然思っていなかったです。ただできるようになりたい、上手くなりたい気持ちしかなかった。自分にはバレエしかないと思っていたので、もっと学びたいという思いだけでした。

 

―バレエ団のオーディションは周囲から勧められたのですか?

 

 スカラシップ制度のあるコンクールに出て海外で学びたい気持ちはあったのですが、新国立劇場バレエ研修所のオーディションがあるのを知って、15歳で東京に上京しました。

 

―高校1年生になったばかりで親元を離れる不安はなかったですか?

 

 ありませんでした。ダメだったらそれでいい。とりあえずやろうと。

研修所に4年間在籍しましたが、はじめて怪我で踊れなくなり、食生活も荒れて、メンタルを崩してしまいました。バレエダンサーになるのはバレエのスキルだけでないんだ、と自覚した日々でした。まず、人として生きる力。人と比べない能力。プライベートな時間をつくる能力。バレエのレッスンだけではなく、表現する要素を経験して勉強しないといけない。そういう人生経験を経て乗り越えれば、次のステージに行けるというバレエダンサーとしての覚悟ができました。ですが、入団を目指していた半年前に新たに身長規制ができ、身長が足りないことが分かりました。新国立劇場バレエ団に入るのが当然と思っていたので、かなり落ち込みました。

 

―その後、東京バレエ団に入団されますね。

 

 ゆかりさん(斎藤友佳理芸術監督)に評価いただけたのは嬉しかったですが、精神的に弱っていたのか環境に馴染めない中、海外に行きたかったことも思い出し、いったんリセットするため地元に戻りました。カフェやドーナッツ店でひたすらバイトして、気づいたら50キロになっていました。ストレスで過食していたんだと思います。過呼吸になったり、今振り返るとうつ病に近かったのかもしれない。心が病んでいました。それでもバレエを完全にやめることはしたくなかった。少しでもレッスンは続けていいて、1年後に海外のオーディションを受けましたがすべてダメでした。

 でもまだどこかで諦めきれていなかったんだと思います。国内の色々なコンクールに出場して、すべて入賞という結果でした。「まだ踊っても大丈夫なのかも」と勇気づけられたのかもしれません。

 

―それでKバレエカンパニー(現Kバレエトウキョウ)に入団されるんですね。

 

 オーディションに受かってアパンレンティスとして入団しましたが、割と早い段階で役をいただき『くるみ割り人形』に2週間後に出演することになりました。その舞台に賭ける思いが強すぎて、オーバーワークしてしまった。そしたら骨折です。自分でも、なんでいつもこうなんだろうと思います。大事なときに何かが起こる(笑)。「とりあえず怪我を治せば大丈夫だから」と励ましていただいたのですが、それ以降も怪我に悩まされました。

 

―それでカンパニーを離れたのですか?

 

 バレエにしがみつくのはやめようと思いました。自己肯定感がどんどん低くなって、すごく器の小さい人になっていた。バレエダンサーだからといって、人として自分を嫌いになりたくない。そんな中、バレエ界以外の尊敬する人に出会い、人として成長したいと思うようになりました。

 バレエを辞めるなら新たな人生を学んでいこう。以前から興味のあったファッション業界に行くことにしました。それでフリーになり、まったく想像してませんでしたが、色々な舞台出演オファーをいただき、CMの撮影も経験しました。

 

―大きなターニングポイントとなった舞台はありますか?

 

 2024年10月の〈第40回芸術舞踊展 MODERN&BALLET 2024〉で踊った『ドン・キホーテ』のキトリと、2025年3月の日本バレエ協会の『ラ・バヤデール』のニキヤです。これまでは心と身体が一体になる感覚があまりなかった。今思うと、自分が評価されるために踊っていたのかもしれません。本来はお客様に喜んでいただくための舞台ですので、本当の意味で踊れたのはフリーになってから、はじめて本番を心から楽しめるようになりました。

 

―インスタで「バレエとの付き合い方、向き合い方がようやく分かってきたような気がします」と語っていらっしゃいました。

 

 ダンサーとして磨きをかけるには、バレエとの距離感も必要です。これまでバレエのことを四六時中考えていたのが、人とのコミュニケーションを積極的にとるようになり、バレエ以外の芸術に触れたり、今までしてこなかった生活をするようになりました。

 そうすると、よりバレエが活きるようになりました。これまではレッスンを休むのが怖くてやり過ぎていたと思います。最近の舞台を観てくれた友人が「前より踊りが良くなった」と言ってくれました。

 

―バレエダンサーとしての”美学”は何ですか?

 

 人間力。綺麗だけではない、生き方そのもの。

 

―目指したいダンサー像はありますか?

 

 テクニックでなく、形だけでもなく、舞台に出ている存在感だけで観たいと思ってもらえるダンサーになりたい。私が見て感動するダンサーは、色と香りが全身から滲み出る人。

100人に好かれなくていいから自分自身を認めれるダンサーになりたい。

 

―次の舞台は、5月のAngel Dream2025『白鳥の湖』にオデット/オディールの2役ですね。

 

 はじめての役です。人間でないからより難しいですね。アームスの羽の動きが想像以上に大変(笑)。でもハードルが高いからこそすごく楽しい。人間が白鳥になるのは想像を膨らませるしかないですが、現実と空想の世界の共通点を見つけたいと思います。

 

―そして、6月に新作バレエミュージカル『カルメン』に出演されます。2022年Kバレエカンパニーの『カルメン』で同じミカエラ役ですね。

 

 とにかく衣裳が可愛くて好きでした(笑)。カルメンの強さを際立たせるための役として演じましたが、今回また違ったミカエラをお見せできるかなと自分でも楽しみです。

 

―今の思いをシェアしていただけますか?

 

 バレエ団に所属していたときと違い、今はオファーがないと踊れないので、求めてくださるならできる限り応えていきたい。見る人の心を動かせたら嬉しい。これまで経験してきた悔しい辛い思いを踊りに活かせるなら、これまでの人生を肯定することになる。それは自分の強みだと思います。

 

 今まで上手くいっていなくて逆に良かったと思えるぐらい、色々なことを乗り越えてきたからこその踊りをお見せしたい。もっとできるという思いを抱えながら10年間過ごしてきた、それがいま爆発してます(笑)!

Angel Dream2025『白鳥の湖』全幕 
2025年5月10日(土)、11日(日)昭和女子大学 人見記念講堂
https://www.angel-r.jp/event/news/40391/
 

新作バレエミュージカル『カルメン』
2025年6月26日(木) , 27日(金)かめありリリオホール
http://confetti-web.com/@/balletmusicalcarmen

【吉田早織プロフィール】

4歳よりバレエをはじめる。2014年新国立劇場バレエ団研修所入所。2015年東京バレエ団に入団2018年9月Kバレエ カンパニーにアパレンティス入団。2019年4月アーティスト、2020年11月ファースト・アーティスト、2021年9月ソリストに昇格。主な出演作は、熊川版『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『くるみ割り人形』のクララ/花のワルツのソリスト/フランス人形/雪のソリスト、『海賊』のオダリスク、『白鳥の湖』のパ・ド・トロワ/4羽の白鳥/ナポリ/チャルダッシュ、『シンデレラ」のバラ、『ドン・キホーテ』、熊川振付『カルメン』のミカエラ/娼・、『カルミナ・ブラーナ』
『マダム・バタフライ』、渡辺レイ振付『FLOW ROUTE』など重要な役どころに出演。現在フリーとして活躍中。
https://www.instagram.com/sa0ri2yoshida/

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